ペンネーム「ネコメノソウ」さんからのお便り
猫にひどいことをする人もいるけれど、多くの人は猫が好きです。
人に向けることのない理解や共感や優しさや無償の愛を、猫には向けることができる。
人を信用していない人でも、猫には心を開けたりする。
人によって傷つけられた人が、人に救われることはなくても、猫に癒されたりする。
人は、どうして猫なら無条件に大切にするのに、人を大切にするのは難しいのですか?
どうしたら人によって傷つけられた人を人が救えるのですか?
わたし、知らないの。
わたしをなでにくる人は、なんて奇麗な目をしているんだって、みんな言う。
でもね、わたし、知らないの。
わたしがどんな目をしているか、一度も見たことがないから。知らないの。
わたし、知っていることもあるよ。
人間の多くは、わたしたち猫を大事にしてくれる。なでてくれる。
でも、石を投げてくる人もいる。
蹴られたことも何度もある。大声で追い掛け回されたり。
だから、わたし、知らないふりをするの。知っていても、知らないふりをするの。
だって、わたしをなでてくれる人を、疑いの目で見ることはできないから。
あなたを信用しているよ。お腹もみせちゃうよ。安心しているんだよ。
そんなふうに思うことができるから、わたしは一度も見たことがないけれど、
奇麗な目をしているんだねって言われるんだと思う。
わたし、人間がどれだけ傷ついているかは知らないの。
人間は言葉の生き物だから、きっとその言葉によって、怪我をしたり、血を流したりするんだね。
だから、わたしがもし人間だったら、知らないふりをすると思う。
自分が脅かされたことも、叩かれたことも、知らないふりをすると思う。
何度だまされても、新しく出会う人には、
あなたを信用しているよ。お腹も見せちゃうよ。安心しているんだよ。
そんなふうに接すると思う。
そうすると、人間の目も奇麗になるんだと思う。
その目で見つめられると、ただそれだけで、
みんなお腹を見せることができるんだと思う。
知らないけど、たぶん、そう。