花代

花代の詩

花代はね、知らないの。
生まれたときの、新宿の空の色を。

歌舞伎町のざわめきのざざざを。
なぜ生まれたのかを。なぜ啼くのかを。


花代はね、知らないの。
塀に上るときの、体の柔らかさを。

よっぱらいの間を駆けていく、
うりゃうりゃうりゃ。
筋肉の天才的な計算を。

花代はね、知らないの。

おねだり上手だということを。
それでいて、ちちちと気が短いことを。

猫パンチをもらった相手の痛みを。


でも、花代はね、知っているの。

ゴールデン街のUZUのママなら

隠れてこっそりご飯をくれることを。
KIKIのママなら
一時間たっぷり撫でてくれることを。
ににゃにゃ。ねにゃにゃ。



でもやはり、花代はね、知らないの。
まん丸な目のなかに、
鉱物学者も、学芸員も見たことがない、
自ずから輝くサファイアがあることを。
そして今夜も横になり、花代はね、
ににゃにゃ。ねにゃにゃ。
ににゃにゃ。ねにゃにゃ。